ジャズと雑学

(63) 歌じゃない”Just In Time”

わかGの身の回りで”Just In Time”を歌う人は多い。佐野さんはよく歌っている。

私がまだ学生時代、自動車工場における生産管理を研究テーマにしていたころがある。1960年代の前半の頃である。工学の研究は問題の現場に出掛けなければ始まらない。新子安の日産自動車の本社や座間の工場に毎月通って会議というのか研究会というのか、データをもらったり情報交換を繰り返していた。私の学部の卒論と修士論文は日産自動車の生の問題を扱っている。

下請け業者に部品の納品数量と日時(細かい時間まで)を指定して納めさせる事を始めたのはトヨタ自動車だった。工場内での部品在庫も0にするため、生産ラインに対する部品の供給も徹底的に管理した。この生産管理方式を「トヨタ方式」と呼んだ。

ある工程から前工程への部品注文指示は「かんばん」と呼ばれるカードが使用されたので、「かんばん方式」とも呼ばれた。1963年にトヨタの全工場がかんばん方式で管理されるようになった。

同じことを日産自動車でも始めた。「Just In Time方式、略してJIT」という。これで、部品の備蓄は必要なくなった。納入された部品を一時的に棚にしまっておくと、生産ラインに部品を運ぶフォークリフトが自動的にとりに来るという仕組みだ。


当時のBluebird

日産の工場では毎朝、皆で”Just In Time”を歌っていた。うそ!

さらに生産ラインでは多種少量生産管理が進み、オプション注文が多い乗用車では同じ車種でも取り付ける装置や部品がみな違う。そういった部品をフォークリフトで供給するのだが、その順序やタイミングを合わせる細かな管理がコンピュータ制御のもとで可能となった。

この方式が始まって以来、工場の外の道路には下請けの部品納入のトラックが並んでいるのです。このトラックが部品倉庫というわけです。大自動車メーカーは部品在庫が無くなったといい万々歳だが、なんてことはない、部品在庫をただ工場の外に追い出しただけだ。まるで漫画じゃないか!われわれはその姿を揶揄したものだった。

80年代前半に国際学会参加のついでに、自動車産業ではないがアメリカの生産工場の見学に行ったとき”JIT”という横断幕が工場内に張ってあるのを見た。「かんばん」という言葉は、そのまま”Kanban"だった。お兄さんは驚きましたよ。「アメリカよ、お前も同じかよ?」って。

いつの世も弱いものにシワ寄せが行き泣かされるのです。ザマミロって?そうでしょうねぇ。(2018/5/30)


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